第81章

「母さん、今ちょっと立て込んでる」

広い会議室。田中辰哉は会議の途中で母からの着信を受けた。周囲は察して口をつぐみ、彼は床まで届く窓の前に立つ。相手が母親となると、声もいつもより柔らかい。

「片づいたら顔を出すよ」

けれど阿部茜は、切羽詰まった様子で台所の扉の向こうから受話口を手で覆った。

「だめ。あんたが片づく頃には、人が帰っちゃう」

「……誰が?」

「前に言ったでしょ、あんたに紹介したい子がいるって。すっごく可愛い子! 雰囲気も品もあって、しかも優しいの。お母さん、めちゃくちゃ気に入った!」

声を潜めているのに、興奮が隠しきれない。

「辰哉、早く帰ってきなさい。会社のこと...

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